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横浜地方裁判所 昭和59年(行ウ)7号 判決 1988年10月31日

神奈川県小田原市板橋七六三-三〇

原告

曾根静男

右訴訟代理人弁護士

青木武

神奈川県小田原市荻窪四四〇

被告

小田原税務署長

佐藤賢市

右訴訟代理人弁護士

野口忠

右指定代理人

安達繁

篠田学

安藤明

三橋正明

山口新平

星野弘

岡村一重

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和五五年分の所得税について、昭和五七年二月二六日付けをもつてした更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

以上の判決を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は住所地において歯科医院を開業している歯科医師であるが、昭和五五年分の所得税について、原告のした確定申告及び修正申告、これに対する被告の更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下「本件賦課決定」といい、これと本件更正処分とを併せて「本件処分」という。)並びに原告のなした不服審査の経緯は、別表記載のとおりである。

2  本件処分の違法性

本件処分は原告の短期譲渡所得金額を過大に認定した違法がある。

すなわち、

(一) 事実経緯

(1) 原告は知人である大矢和夫(以下「大矢」という。)から、同人が代表取締役を務める日総観光株式会社(後に大矢観光株式会社と商号変更した。以下「日総観光」という。)が神田信用金庫から三〇〇〇万円を借り受けるにつき、原告所有の不動産を担保に供するように依頼され、神田信用金庫との間において、原告所有の神奈川県小田原市板橋上ノ山七六三番三〇所在の宅地及び同所同在の家屋について、根抵当権者を神田信用金庫、債務者を日総観光、極度額を三〇〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結したうえ、昭和五〇年一一月二一日その旨の根抵当権設定登記を了した。

しかし、日総観光は昭和五〇年一一月末ころ営業活動を停止して事実上倒産してしまい、原告は昭和五四年六月二日神田信用金庫からの要求により、日総観光の借入金元本三〇〇〇万円及び利息五〇〇万円を代位弁済し、日総観光に対し右同額の求償債権を取得した。

また、原告は日総観光に対し、昭和五〇年一二月二九日に二〇〇万円、昭和五一年一月一七日に一〇〇万円、同年八月二七日に二〇〇万円、同年八月末に九〇〇万円、昭和五二年八月一九日に一〇〇万円を貸し渡しており、右求償債権を含めて合計五〇〇〇万円の債権を有していた。

大矢は原告に対し、右五〇〇〇万円の債務を大矢及び同人が代表取締役に就任し、又は将来就任する会社において返済する旨を約していたところ、昭和五三年七月に大矢を代表取締役として、ホテル、ゴルフ場の経営、不動産の売買、仲介を営む八ヶ岳山麓開発株式会社(以下「八ヶ岳山麓開発」という。)を設立し、同社は昭和五四年六月二日原告に対し、原告の日総観光に対する五〇〇〇万円の債権について債務の引受けにより履行することを約した。

(2) 原告は昭和五四年七月ころ、藤堂智就(以下「藤堂」という。)を通じてパイオニア産業株式会社(以下「パイオニア産業」という。)の代表取締役藤田昌邦(以下「藤田」という。)から、横浜市中区山手町一五二番一所在の宅地(九一六・三五平方メートル)及び同地上の家屋(家屋番号一五二番一の二、木造アルミニユーム板葺平屋建。以下右宅地と併せて「本件物件」という。)の購入を勧められた。

原告は、歯科医であつて不動産取引の経験がなかつたところから、転売して利益をあげる目的で本件物件を買受けることを躊躇し、むしろ、八ヶ岳山麓開発が本件物件を買受けて転売することによつて売却益をあげ、これをもつて原告に対する五〇〇〇万円の債務を返済して貰いたいと考え、大矢にその趣旨を告げて本件物件の取引を勧めたところ、同人もこれを承諾したが、仕事が忙しいので実際の売買手続は原告に任せたいので協力して欲しいと要望された。

八ヶ岳山麓開発は、本件物件の買取資金の融資を神田信用金庫に申し入れていたが、本件物件が同金庫の取引地域外にあることや、八ヶ岳山麓開発が八ヶ岳山麓の開発事業にかかりきりであつたことから、融資の申込には応じて貰えなかつた。

(3) 原告は藤田から、本件物件が他に売却されるおそれがあるから至急購入するように勧められたので、大矢の了解を得て箱根信用金庫早川支店から一億一二二〇万円を借り受け、昭和五四年九月一四日本件物件をその所有者であるスルザー・ブラザーズ・リミテッド社(以下「スルザー社」という。)から七五〇〇万円で買い受けた。

なお、原告は本件取引をはじめるにあたり、藤田及び藤堂との間において、八ヶ岳山麓開発が本件物件を買い取り転売すること、最終取引まで藤田が責任をもつて取り仕切ること、八ヶ岳山麓開発が藤田及び藤堂に対し、転売利益のうちからリベートとして各一〇〇〇万円ずつを支払うことを約し、これを支払つた。

(4) その後、原告は昭和五四年一一月初めころ、有限会社大和不動産(以下「大和不動産」という。)の代表取締役高島清から本件物件の買手がある旨の連絡を受けたので、パイオニア産業の藤田と交渉して欲しい旨を伝えた。藤田は高島清と交渉の上、原實に対し一億三〇〇〇万円で売り渡すことを決めたが、その際、高島清を通じて原實に対し、八ヶ岳山麓開発が売主であること、登記手続は、原告から原實に中間省略で行うことを伝えた。

しかし、原實が銀行から融資を受ける都合上売買契約の売主を登記簿上の所有者である原告にして欲しいと要望してきたので、原告は、原實の融資が実現し最終取引が行われる際、改めて八ヶ岳山麓開発を売主とする売買契約書を作成することを条件にして、原告を売主とする売買契約書の作成に同意した。

(5) 原告は、昭和五四年一一月二六日、八ヶ岳山麓開発との間において、本件物件を八三〇〇万円で売り渡す旨の売買契約を締結するとともに、原實に対し、一億三〇〇〇万円で売り渡す旨の売買契約書を作成した。

原告は、八ヶ岳山麓開発の代表取締役大矢が多忙なため同会社の代理人として、昭和五五年一月八日協和銀行和田町支店において、原實との間において、売主を八ヶ岳山麓開発、買主を原實、売買価格を一億三〇〇〇万円とする売買契約書を作成し、原實から売買代金を代理受領した。

(6) 原告は昭和五五年二月一〇日大矢に対し、原實から受領した売買代金一億三〇〇〇万円から八ヶ岳山麓開発に対する譲渡代金八三〇〇万円、大和不動産に対する仲介手数料三〇〇万円、原告の日総観光に対する貸金のうち三五〇〇万円、利息八一万三一二〇円、遅延損害金一三四万〇五〇〇円の合計一億二三一五万三六二〇円を控除した残金六八四万六三八〇円を交付して清算した。

八ヶ岳山麓開発は、昭和五五年二月二五日に横浜県税事務所に本件物件の不動産取得税申告書を提出して納税している。また、八ヶ岳山麓開発はその開発事業に失敗して倒産したが、本件物件の売却利益は大矢個人に帰属したものとして、昭和五九年五月一八日世田谷税務署に昭和五五年分の所得税確定申告書を提出して申告納税額一〇六二万三一〇〇円の支払意思を表明している。

以上のとおり、原告は、本件物件を七五〇〇万円で購入して、八ヶ岳山麓開発に八三〇〇万円で売却したのであり、被告が主張するように、原告が原實に対し一億三〇〇〇万円で売却したものではない。

(二) 原告は、前記主張のとおり、藤田及び藤堂に対し、それぞれ一〇〇〇万円ずつ合計二〇〇〇万円を本件物件売買のリベートとして交付し、また、八ヶ岳山麓開発に対し、事務処理経費として二〇〇万円を支払つたから、右合計二二〇〇万円は本件物件の売買に必要な経費として、所得金額から控除すべきである。

(三) したがつて、原告が原實に対し、本件物件を一億三〇〇〇万円で売却したと認定し、かつ、藤田及び藤堂に対するリベートとして支払つた金員や八ヶ岳山麓開発に支払つた事務所経費を必要経費と認めずになされた本件処分は違法である。

よつて、本件処分の取り消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2一の事実中、日総観光の神田信用金庫に対する三〇〇〇万円の借入金を連帯保証人として弁済したことにより、原告が日総観光に対し、本件物件の売買当時、三〇〇〇万円の求償債権を有していたこと、原告が藤堂を通じて藤田から本件物件の購入を勧められたこと、原告が昭和五四年九月一四日に箱根信用金庫早川支店から一億一二二〇万円を借り受けたこと、原告が同日スルザー社から七五〇〇万円で本件物件を買い受けたこと、原實が本件物件を一億三〇〇〇万円で購入したこと、八ヶ岳山麓開発名で横浜県税事務所に本件物件の不動産取得税申告書が提出されたこと、大矢の名で世田谷税務署に昭和五五年分の所得税の確定申告書が提出されたことは認め、その余は否認する。

3  同2二の事実は否認する。

4  同2三は争う。

三  被告の主張

1  本件更正処分の根拠

(一) 総所得金額 一四五一万六五三六円

原告が修正申告した配当所得金額一一〇二万二〇〇〇円(但し、一〇〇〇円未満を切り捨てた金額)に給与所得金額三四九万四五三六円を加算した金額である。

(二) 分離課税の短期譲渡所得金額

四四八五万八四六三円

(1) 事実の経緯

<1> 原告は、昭和五四年三月ころ藤堂を通じて藤田から本件物件を代金七五〇〇万円で購入することを勧められ、同年七月三〇日に藤田の仲介でスルザー社から本件物件を買い受ける旨の売買契約を締結し、同年九月一四日に箱根信用金庫早川支店から一億一二二〇万円の融資を受けて右代金を支払い、所有権移転登記手続を了した。

<2> 原告は大和不動産の仲介により、昭和五四年一一月二六日原實に対し、本件物件を代金一億三〇〇〇万円で売り渡す旨の売買契約を締結し、同年一二月一五日までに手付金一五〇〇万円の支払いを受け、昭和五五年一月八日残金一億一五〇〇万円の支払いを受けた。

<3> ところで原告は、大矢が経営する日総観光が神田信用金庫新宿支店から三〇〇〇万円を借り受けるにつき連帯保証し、日総観光が返済不能に陥つたことから、昭和五四年六月六日右債務を代位弁済し、日総観光に対して求償債権を取得していた関係にあつたところ、原告は、本件物件の譲渡益が高額で、本件物件の譲渡に伴う所得税の負担が大きくなるためこれを回避する目的で、売買契約に大矢の経営する赤字会社である八ヶ岳山麓開発を介在させることにした。

そして、原告は、原實との間の売買契約が締結された昭和五四年一一月二六日の後に、本件物件を八三〇〇万円で八ヶ岳山麓開発に売り渡す旨の昭和五四年一一月二六日付けの売買契約書を作成し、また、八ヶ岳山麓開発が原實に対し、本件物件を一億三〇〇〇万円で売却する旨の右同日付けの売買契約書を作成して、原告が八ヶ岳山麓開発に対し、本件物件を一旦売却し、同社が原實に対し売却したように仮装した。

以上のとおり、原告はスルザー社から七五〇〇万円で本件物件を購入し、原實に対し一億三〇〇〇万円で売却したものである。

(2) 収入金額 一億三〇〇〇万円

原告が原實に対し、昭和五五年一月八日、本件物件を売却した売買代金額である。

(3) 取得費 八二一三万三八三七円

<1> 購入価格 七五〇〇万円

原告が昭和五四年九月一四日にスルザー社から本件物件を購入した売買代金額である。

<2> 借入金利子 二二一万六八五七円

原告は、本件物件の購入資金及び購入に伴う後記の付随費用一八四万二七〇〇円の支払いに充てる一億一二二〇万円を箱根信用金庫早川支店から借り入れていた。

そこで、右借入金の利子三二三万六八九一円(昭和五四年九月一四日から昭和五五年一月八日までの間)のうち、本件物件の購入代金及び付随費用の合計七六八万二七〇〇円に対応する支払利息二二一万六八五七円を取得経費とした。

<3> 仲介手数料 二三一万円

原告がパイオニア産業に対し、本件物件の仲介手数料として支払つた金額である。

<4> 登録免許税等 一七六万二四〇〇円

原告が本件物件を取得した際支払つた登録免許税である。

<5> 不動産取得税 七六万四二八〇円

<6> 印紙代 八万〇三〇〇円

(4) 譲渡費用

<1> 仲介手数料 三〇〇万円

原告が大和不動産に対し、本件物件を原實に売り渡すにつき支払つた仲介手数料である。

<2> 登記費用 七七〇〇円

原告が、本件物件に設定されていた抵当権の設定登記を、抹消登記手続するに要した費用である。

(5) 譲渡所得 四四八五万八四六三円

前記(2)記載の収入金額一億三〇〇〇万円から(3)、(4)各記載の取得費及び譲渡費用の合計八五一四万一五三七円を控除した四四八五万八四六三円が譲渡所得である。

(三) したがつて、原告の昭和五五年分の総所得金額を一四五一万六五三六円、分離短期譲渡所得を四四七三万九七七二円と認定してなされた本件更正処分は適法である。

2  本件賦課決定の根拠

(一) 本件更正処分により、原告が国税通則法六五条一項に基づき納税すべき税額は二七六六万五四〇〇円(但し、同法一一九条一項により一〇〇円未満を切り捨てた金額)となり、同法六五条二項所定の正当事由がないから、右税額の全部が加算税の計算基礎となる。

(二) 原告は、前記1二(1)記載のとおり、本件物件の譲渡代金が一億三〇〇〇万円であるにもかかわらず、八三〇〇万円とする売買契約書を作成し、これに基づき昭和五五年分所得税の申告において、分離短期譲渡所得に係る収入金額を四七〇〇万円過少に申告しており、右行為は国税通則法六八条一項所定の仮装又は隠ぺいの事実に該当する。

したがつて、過少申告した四七〇〇万円に対する分離短期譲渡所得税の税額二七五二万九〇〇〇円は重加算税の基礎となるから、原告が納付すべき重加算税は、八二五万八七〇〇円(二七五二万九〇〇〇円×〇・三)となる。

(三) 過少申告加算税の基礎となる税額は、原告が本件更正処分により納付すべき二七六六万五四〇〇円から重加算税の計算基礎となつた二七五二万九〇〇〇円を控除した一三万五〇〇〇円(国税通則法一一八条三項により一〇〇〇円未満を切り捨てた金額)となる。

したがつて、原告が納税すべき過少申告加算税は、六七〇〇円(一三万五〇〇〇円×〇・〇五、国税通則法一一九条四項により一〇〇円未満を切り捨てた金額)となる。

(四) 以上のとおり、本件加算税額は、重加算税額八二五万八七〇〇円、過少申告加算税六七〇〇円の合計八二六万五四〇〇円となるところ、本件賦課決定は、重加算税額八一四万八〇〇〇円、過少申告加算税額二万五二〇〇円の合計八一七万三二〇〇円であるから、本件賦課決定は右金額の範囲内であつて適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1一の事実は認める。

2  同1二(1)の事実中、原告が昭和五四年三月ころ、藤堂を通じて藤田から本件物件を購入するように勧められ、箱根信用金庫早川支店から一億一二二〇万円を借り受けて、昭和五四年九月一四日に本件物件をスルザー社から買い受けたこと、原告が大矢の経営する日総観光に対し、三〇〇〇万円以上の求償債権を有していたことは認め、その余は否認する。

同1二(2)の事実は否認し、(3)の事実は認め、(4)の事実中、大和不動産が本件物件を原實に売却するにつき、仲介手数料三〇〇万円を取得したこと、原告が登記費用七七〇〇円を支出したことは認め、その余は否認し、(5)は争う。

3  同1三は争う。

4  同2は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実(本件処分、不服審査の経緯等)及び原告の昭和五五年分総所得金額が一四五一万六五三六円であること(被告の主張1一)は当事者間に争いがない。

二  分離課税の短期譲渡所得金額について判断する。

1  争いのない事実

(一)  原告は日総観光に対し、本件物件の売買当時三〇〇〇万円の求償債権を有していた(請求原因2一)。

(二)  原告は藤堂及び藤田から本件物件の購入を勧められた(右同)。

(三)  原告は昭和五四年一四日、箱根信用金庫早川支店から一億一二二〇万円を借り受けた(請求原因2一及び被告の主張1二(1))。

(四)  原告は昭和五四年九月一四日、スルザー社から七五〇〇万円で本件物件を購入した(請求原因2一及び被告の主張1二(1))。

(五)  原告は本件物件を取得するにつき、購入代金七五〇〇万円、借入利子二二一万六八五七円、パイオニア産業に対する仲介手数料二三一万円、登録免許税一七六万二四〇〇円、不動産取得税七六万四二八〇円及び印紙代八万〇三〇〇円を要した(被告の主張1二(3))。

(六)  原實は本件物件を一億三〇〇〇万円で購入した(請求原因2一)。

(七)  原告は、本件物件に設定されていた抵当権の設定登記を抹消するために七七〇〇円の登記手続費用を支出した(被告の主張1二(4)<2>)。

(八)  大和不動産は、原實が本件物件を購入する取引を仲介し、売主から三〇〇万円の仲介手数料を取得した(被告の主張1二(4)<1>)。

2  右争いのない各事実に加えて、成立に争いのない甲第一ないし第一七号証、第三〇号証の二、乙第一、第二号証の各一ないし三、第一四、第一五号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第六号証、第七号証の二、三、第一〇ないし第一二号証、第二〇ないし第二二号証、証人大矢和夫の証言により真正に成立したと認められる甲第三〇号証の一、第三二号、証人藤田昌邦の証言により原本の存在とその真正な成立が認められる乙第二五ないし第二八号証(但し、乙第二五号証及び第二八号証については後記の信用できない部分を除く。)証人藤堂智就の証言により真正に成立したと認められる乙第二九号証、第三一号証(但し、後記の信用できない部分を除く。)原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一八、第一九号証、第二一号ないし第二四号証、第二八、第二九号証、第三一号証、第三三号証、右乙第六号証中の原實名下の印影と同一の印影が表示されていると認められるから真正に成立したものと推認される乙第七、第八号証の各一、右乙第二九号証中の藤堂智就名下の印影と同一の印影が表示されていることから真正に成立したと認められる乙第三〇号証(但し、後記の信用できない部分を除く。)、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第八号証の2、第一九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第八号証の三、証人藤田昌邦(但し、後記の信用できない部分を除く。)、同藤堂智就(但し、後記の信用できない部分を除く。)、同大矢和夫の各証言、原告本人尋問の結果を総合すると以下の事実が認められる。

(一)  原告は昭和四三年に肩書地において歯科医院を開業した歯科医であるが、昭和四七年ころ、後輩の橋本三郎の紹介により、別荘地分譲等の事業を行つていた大矢を知るようになり、昭和四九年ころ、同人から有利な投資があるなどと言われて、三〇〇〇万円を同人に出資し、翌年に八〇〇万円の返済を受けた。

また、原告は昭和五〇年ころ、大矢の経営する日総観光が資金繰りに窮していたところから、同人の求めに応じて約束手形約一五通、額面金額合計六〇〇〇万円を同人に宛てて振り出し、うち約二〇〇〇万円相当の手形を決済して同額の求償債権を取得し、さらに、大矢からすみやかに他の担保物件と交換するのでそれまでの間担保物件を提供して欲しいと言われて、日総観光が神田信用金庫から三〇〇〇万円の融資を受けるにつき、同年一一月七日原告所有の神奈川県小田原市板橋字上ノ山七六三番三〇所在の宅地及び同土地上の自宅兼診療所に極度額三〇〇〇万円の根抵当権を設定すると共に連帯保証した(甲第一号証)が、その後日総観光が事実上倒産状態に陥つて返済能力を喪失したため神田信用金庫から返済を請求され、昭和五四年六月六日第一勧業銀行から融資を受けて三〇〇〇万円を神田信用金庫に返済する(甲第二号証)と共にその直後にも大矢に求められて同じく同行から融資を受け、利息金の返済資金として五〇〇万円を同人に交付し、以上の結果合計三五〇〇万円の求償債権を取得した。

原告は、昭和五四年五月ころ弁護士に委任して右求償債権の回収について大矢と交渉した結果、大矢は、原告が日総観光に総額五〇〇〇万円を貸し付けたこと、大矢及び日総観光が原告に連帯して右債務を支払うべきものであることを確認したうえ、同年六月二日原告に対し、大矢が代表者である会社又は将来代表者として営業活動を行う会社に返済能力が生じたときにこれらの会社によつて右債務を返済することを約し、その旨の「債務確認並びに債務弁済書」(甲第三二号証)を作成した。

なお、日総観光は事実上倒産状態に陥つたため、昭和五三年三月二〇日同社の商号を「大矢観光株式会社」に変更した。(甲第三号証)。

(二)  大矢は、昭和五三年七月六日に資本金二五〇〇万円の八ヶ岳山麓開発を設立し、八ヶ岳山麓の清里高原に近い飯盛山周辺(長野県南佐久郡南牧村)を開発して、別荘地、テニスコート、スキー場、ゴルフ場等のレクリエーシヨン施設を建設する計画を立て、昭和五四年一二月二二日南牧村から同村所有の土地を賃借し(甲第一〇ないし第一六号証)、昭和五五年度から三年の期間をかけて第一期工事を行うことを決めていた。

(三)  藤堂は、建築、企画、設計等を行う株式会社インターナショナル・デザインアソシエーツの代表者でインテリア・デザイナーであるが、昭和五三年ころ、スイスの会社であるスルザー社から同社所有の本件物件を含む三区画の土地及び建物の売却を依頼され、パイオニア産業の代表者藤田に右物件の売却を依頼した。

その後昭和五三年七月ころ藤堂は右藤田と共に、知り合いである原告を訪れ、廉価な物件であるから転売すれば利益があると言つて、本件物件を一億円で購入するように勧めた。

そこで、原告は本件物件の購入について大矢に相談したところ、同人は原告に対し、個人が不動産売買を行つて転売利益を得ても分離課税で利益の八〇パーセントを税金に取られるから、調査してみて利益の得られる物件であるならば自分が取引して利益を上げ、この利益金をもつて日総観光の原告に対する債務を返済した方がよい旨回答し、原告もこれを納得して大矢を藤堂に紹介したが、両者が本件物件で多く利益を得ようとして話がまとまらなかつた。

藤堂及び藤田は、昭和五四年三月ころ再び原告に対し、本件物件を七五〇〇万円で購入するように勧めたところ、原告は、八ヶ岳山麓開発が未だ事業活動により利益を上げられる状況になく、原告の大矢及び日総観光に対する債務が早期に返済されそうにないところから、大矢又は八ヶ岳山麓開発が本件物件の取引により利益を上げ、右利益によつて原告に対する債務を返済させようとして、本件物件を購入するように大矢に勧めた。

大矢は、本件物件を調査した上七五〇〇万円であれば廉価な物件であると判断し、かつ、当時経営していた八ヶ岳山麓開発が多額の赤字を抱えており、本件物件の売買で利益を上げても税金を納めることにはならないと判断し、同社が本件物件を購入して転売し、その利益で大矢及び日総観光の原告に対する債務を返済することを了承して藤堂と売買の交渉をした。

(四)  大矢は、神田信用金庫から本件物件の購入代金の融資を受けようとしたが、本件物件の所在地が同金庫の融資区域外であるとの理由で融資を断られ、他に差し当つて融資を得られるあてもなかつたところ、藤堂及び藤田がスルザー社が売却を急いでいるといつて売買を急がされたため購入代金の捻出に窮するに至つた。

そこで、大矢は、原告の取引金融機関である箱根信用金庫早川支店から大矢又は八ヶ岳山麓開発名義で融資を受けようとして申し入れたが、取引の実績がないとの理由で断られた。

そこで原告は、大矢又は八ヶ岳山麓開発が本件物件の購入資金を調達できないのであれば、原告が一旦本件物件を購入し、これを八ヶ岳山麓開発に転売し、さらに同社が他に転売することによつて利益を上げさせ、よつて生じた利益によつて債務を返済させようと考えた。

しかし、原告は、大矢に欺かれて倒産寸前の日総観光に数千万円も出資させられたり担保を提供させられていたため大矢を信頼することができず、このため大矢との間で原告が本件物件を八ヶ岳山麓開発に売却し、同社が更にこれを他に転売することの合意をしていながら、転売に関する交渉等を藤田及び藤堂に任せて大矢を排除し、他方、藤田及び藤堂も、大矢を取引に関与させると同人が本件物件の取引による利益をすべて取得してしまうことをおそれ、本件物件の転売に関する一切の事柄について原告と交渉し、原告から、本件物件の転売利益から合計二〇〇〇万円のリベートを支払うことの約束を得た。

以上の経緯を経て原告は、昭和五四年七月三〇日パイオニア産業の仲介のもとにスルザー社との間において、本件物件を七五〇〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、その旨の土地付建物売買契約書(甲第一七号証)を作成し、箱根信用金庫早川支店から借り受けた一億一二二〇万円をもつて、同年九月一四日右代金の支払いを完了し、所有権移転登記手続を了した。

なお、原告は、同年九月二八日本件物件の所有権移転及び抵当権設定による登録免許税、その手続費用等に一七六万二四〇〇円(乙第一二号証)、印紙代八万〇三〇〇円を支払い(当事者間に争いがない。)、さらに、同年一一月二七日、パイオニア産業に対し仲介手数料二三一万円を支払つた(乙第一一号証)。

(五)  原實は、昭和五四年秋ころから大和不動産に依頼して住居となる建物を探していたところ、原告がパイオニア産業を通じて本件物件を売りに出していたところから、大和不動産の紹介で、本件物件を購入することとした。

そこで、大和不動産の代表者高島清は、原實の依頼を受けて原告及び藤田と交渉したところ、本件物件は既に八ヶ岳山麓開発に売却されているので、同社を売主として原實に一億三〇〇〇万円で売却したい旨の回答を得た。

原實は、昭和五四年一一月二六日同人の依頼した仲介業者である大和不動産の代表者高島清と共に原告方を訪れ、原告及び原告の依頼した仲介業者であるパイオニア産業の代表者藤田と話し合つて、八ヶ岳山麓開発を売主として原實に本件物件を売却することで合意するに至つたが、原實が売買代金を銀行から借り入れる都合上登記名義人である原告を売主として売買契約書を作成するように要請したため、原實が原告から本件物件を一億三〇〇〇万円で買い受けること、手付金一五〇〇万円を同日一〇〇万円、翌二七日四〇〇万円、同年一二月二〇日までに一〇〇〇〇万円と分割して支払うこと、残代金一億一五〇〇万円を本件物件の引き渡し及び所有権移転登記と共に支払うことを内容とする土地付建物売買契約書(乙第六号証)を作成した。

なお、原告は右売買契約の際、大和不動産に対し、仲介手数料として三〇〇万円を支払う旨を約束した。

原實は原告に対し、右売買契約に従つて、同日手付金の一部として一〇〇万円、翌二七日に四〇〇万円(小切手で三〇〇万円、現金一〇〇万円)を、同年一二月一五日ころ、手付金の残金一〇〇〇万円を支払い、原告からそれぞれ領収書を受領した。

(六)  原告は、右認定のとおり、大矢を排除して自ら本件物件の取得、処分をすすめながら、八ヶ岳山麓開発に本件物件を売却し同社をして他に転売させる形式をとることにしており、大矢も原告に税金対策のために本件物件の登記名義を八ヶ岳山麓開発に変えたうえで他に転売するように助言していたが、藤田は原告に対し登記名義を八ヶ岳山麓開発に変えるまでもなく、契約書上において売主を八ヶ岳山麓開発にしておけばよいと助言し原告もこれに従つて登記名義を原告としたまま前記認定のとおり原實との売買を締結した。

原告は、原實との右売買契約締結後になつて、八ヶ岳山麓開発が本件物件を取得し、売却したことを明確にしておく必要があると考え、昭和五四年一一月ころから大矢に対し、八ヶ岳山麓開発が原告から本件物件を買い受ける旨の売買契約書を作成するように求め話合いの末、同年一二月末ころ、原告が八ヶ岳山麓開発に本件物件を八三〇〇万円で売却する旨の土地付建物売買契約書(甲第一八号証)を作成したが、日付欄は空欄とし、また、同日ころ、八ヶ岳山麓開発が原實に一億三〇〇〇万円で本件物件を売却する旨の土地付建物売買契約書(甲第一九号証)の本文及び売主欄を記載した書面を作成した。

(七)  原告及び原告の仲介業者藤田と原實及び同人の仲介業者高島清は、昭和五五年一月八日、売買代金の決済をするため協和銀行和田町支店に集まつたが、大矢には売買代金決済の期日も知らされず、同人又は八ヶ岳山麓開発の社員は出席しなかつた。

原實は、同日、原告に対し、売買残代金一億一五〇〇万円を支払い、原告は、原實から受領した売買代金のうちから一億一四〇一万二二〇〇円を箱根信用金庫早川支店に振込送金した。

また、原告は、同日、原實をして、八ヶ岳山麓開発が原實に対し、本件物件を一億三〇〇〇万円で売り渡す旨の前記土地付建物売買契約(甲第一九号証)の買主欄に署名、捺印させ、また、高島清をして、右契約書の仲介人欄に大和不動産のゴム印、社印及び取引主任者欄に高島清のゴム印、印鑑を捺印させたうえ、右契約書の日付欄に昭和五四年一一月二六日と記載して右契約書を完成させた。

さらに、原告は、同日、原實から以前に渡していた手付金の領収書を回収し、同人に八ヶ岳山麓開発発行の一億三〇〇〇万円の領収書を渡したものの、原告が原實に本件物件を売却する旨を記載した売買契約書(乙第六号証)を協和銀行から取り戻すことはできなかつた。

なお、原告は高島清に対し、同日、大和不動産の仲介手数料として三〇〇万円を支払い、同社から八ヶ岳山麓開発宛の領収書(甲第二一号証)を受領した。

(八)  原告は、昭和五五年二月一〇日、大矢との間において、八ヶ岳山麓開発の原實に対する売買代金一億三〇〇〇万円から、原告の八ヶ岳山麓開発に対する売買代金八三〇〇万円、大和不動産に対する仲介手数料三〇〇万円、原告の大矢及び日総観光に対する貸金債権三五〇〇万円、右貸金に対する利息八一万三一二〇円(昭和五四年六月二日から同年九月三〇日までの間について年七パーセントの割合)、遅延損害金一三四万〇五〇〇円(昭和五四年一〇月一日から同五五年一月八日までの間について年一四パーセントの割合)を控除した六八四万六三八〇円を返還することを内容とする「不動産売買代金の精算書」(甲第三一号証)を作成したが、右精算金は八ヶ岳山麓開発に支払われておらず、その後、原告から同社に三〇〇万円が貸し渡されたに過ぎない。

原告は、藤田及び藤堂との約束に従つて、藤田に対し、本件物件の取引に対するリベートとして、昭和五四年一二月一五日ころ、一〇〇〇万円(原實が手付金として支払つた小切手)、昭和五五年七月末ころ三五〇万円、同年一〇月末ころ一五〇万円、同年一一月二八日ころ二六〇万円、同年一二月一〇日ころ二四〇万円を支払い、藤田は藤堂に対し、昭和五五年中に右リベートとして受領した中から九七〇万円を数回に分けて支払つた。

また、八ヶ岳山麓開発が昭和五五年二月二五日神奈川県横浜県税事務所長に本件物件を取得したとして、不動産取得税申告書(甲第二二号証)を提出し、その結果、不動産取得税が同社に課されたため、原告は、右不動産取得税を昭和五五年五月二六日に九万四五三〇円、同年一一月一〇日に四五万七七三〇円を支払つた(甲第二三、第二四号証)。

(九)  原告は、昭和五五年二月二七日、小田原税務署長に対し、本件物件を八ヶ岳山麓開発に八三〇〇万円で売却し、二七二万八五二〇円の短期譲渡所得があつたと確定申告した(乙第一号証の一、三)。

八ヶ岳山麓開発は、昭和五五年一月八日、物件を差押えられ、その後倒産してしまつたが、大矢は、原告が本件処分を受けたことから、原告の税理士と話し合つたうえ、昭和五九年五月一八日、本件物件の取引により大矢個人が二六四七万三三四〇円の譲渡益を得たとして確定申告を行つた(乙第二一号証)ものの、申告納税額一八七万六二四七円を納税していない。

以上のとおり認められ、これに反する証拠は次に判示するとおり信用できない。

すなわち、証人藤田昌邦、同藤堂智就の各証言中には、藤田及び藤堂が原告に本件物件の購入代金として二〇〇〇万円を貸していて原告からその返済を受けたことはあるが、原告との間において、本件物件取引のリベートとして合計二〇〇〇万円を貰う約束もないし、貰つたこともない旨の供述部分があるうえ、乙第二五号証(被告の照会に対する藤田の回答書)、第三一号証(藤堂の東京国税局職員に対する供述聴取書)中にも、同旨の記載部分があり、また、乙第二八号証(藤田の小田原税務署職員に対する供述聴取書)中には、藤田及び藤堂は原告に対し、本件物件が廉価であることを保証する趣旨で証拠金としてそれぞれ一〇〇〇万円を預け、その返済を受けた旨の記載部分があり、さらに、証人藤堂智就の証言中、乙第二九号証(被告の照会に対する藤堂の回答書)、第三〇号証(藤堂の小田原税務署職員に対する供述聴取書)中には、藤堂が原告から、原告の診療所の設計業務を委託され、その報酬として七四五万円を受領した旨の供述部分及び記載部分がある。

しかし、前記認定のとおり、原告は、昭和五四年九月一四日、箱根信用金庫早川支店から一億一二二〇万円を借り受け、これをもつて本件物件の売買代金七五〇〇万円と諸費用を支弁しているのであつて、藤田や藤堂から二〇〇〇万円を借り受ける必要はなく、また、原告が相談をもちかけた大矢の調査によつても本件物件が廉価であるとされ、その判断を経て本件物件を購入したのであり、藤田及び藤堂からわざわざ廉価な物件であることを保証する趣旨で保証金の預託を受けるとは考え難いのであつて、藤田や藤堂が本件物件を原告に売り渡すために二〇〇〇万円もの金員を貸し付けたり預託する必要性又は合理性は右各証拠によつても認めることができない。しかも、右各供述及び記載部分を裏付ける金銭消費貸借証書などもないのであつて、右各供述及び乙第二五号証、第二八号証、第三一号証の右各記載部分は原告本人尋問の結果に照らして信用できないばかりでなく、その内容においても不合理、不自然であり信用できない。

また、藤堂が原告から設計業務を委託されて七四五万円の報酬を得た旨の供述についても、原告本人尋問の結果に照らして信用できないばかりでなく、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二八号証、証人藤堂智就の証言、原告本人尋問の結果によれば、藤堂は、一級建築士の資格もない単なるインテリア・デザイナーに過ぎない者であるところ、原告との間において、昭和五五年一月九日に総額三六〇万円で診療所の増改築工事の設計業務委託契約を締結したが、原告の要求に応じた仕事を行わなかつたため、二箇月分に相当する六〇万円の支払いしか受けなかつたことが認められ、藤堂が原告から報酬を七四五万円とする設計委託契約を締結したとする証拠はなく、かつ、藤堂が原告のために右報酬に相当する設計業務を行つたとする証拠もないのであつて、藤堂の右供述及び乙第二九、第三〇号証の各記載は信用できない。

3  以上認定の事実に基づいて判断すると、原告は当初においては、本件物件を購入してこれを大矢が経営していた八ヶ岳山麓開発に譲渡した上で同会社に転売させ、よつて生じる転売利益をもつて大矢又は日総観光に対する債権を回収しようと考えて行動していたが、その途中において、八ヶ岳山麓開発及び大矢にはこれを購入して転売するための資金調達力が全くなく、大矢を信頼することもできなくなつていたため、自ら資金を調達して本件物件を買い受けて転売しようと考えるにいたり、八ヶ岳山麓開発及び大矢を排除してこれを買い受けて転売したが、譲渡所得の金額が高額でこれに賦課される譲渡所得税の額が多額になるところから、これを免れるために、八ヶ岳山麓開発を名目上の売買契約当事者として原告と原實との間に介在させたものと認めるのが相当である。

さらに、以上の認定事実に基づいて取引の実態の点から検討してみても、本件のように高額な不動産の取引においては、その買受け資金の調達が最も重要と考えられるところ、八ヶ岳山麓開発は全くこれを分担することなく、専ら原告の信用と負担によつて資金調達がなされており、これを転売するについても、売主の判断と責任においてなされるべき買主の選定、代金額等売却条件の決定等も原告の判断によつてなされているとみられる(原告と八ヶ岳山麓開発との間に代理の関係が存在した旨の主張も立証もない。)のであつて、結局、物件の取得から処分にいたるまで、一貫して原告の責任と負担においてなされていることになり、八ヶ岳山麓開発が関与した形跡は全くないのであるから、このように終始危険負担を負うことのない八ヶ岳山麓開発に転売利益が帰属すると考えることは極めて不自然なことといわねばならないところであるから、八ヶ岳山麓開発が本件物件を取得してこれを原實に転売したとは到底認められない。

原告と八ヶ岳山麓開発の売買契約書(甲第一八号証)、八ヶ岳山麓開発と原實間の売買契約書(甲第一九号証)、原告発行の八ヶ岳山麓開発宛売買代金領収書(甲第二〇号証)、八ヶ岳山麓開発発行の原實宛売買代金領収書、及び大和不動産発行の八ヶ岳山麓開発宛不動産仲介料領収書(甲第二一号証)がいずれも形式を整えるために作成されたもので事実に反するものであることは既に判示したところから明らかであり、証人藤田昌邦、同大矢和夫の各証言中右認定に反する部分が措信できないことも同様である。

なお、八ヶ岳山麓開発は、原告から本件物件を取得したとして、昭和五五年中に不動産取得税を支払つているが、右不動産取得税は、原告が納税したものであり、右納税の事実をもつて、八ヶ岳山麓開発が原告から本件物件を取得したと認められることはできない。また、原告は、大矢との間において、「不動産売買代金の精算書」(甲第三一号証)を作成しているが、右書面の内容は、原告の大矢又は日総観光に対する貸金債権の弁済期を昭和五四年九月三〇日とし、利息を年七パーセント、遅延損害金を一四パーセントとする前提で精算するものであるが、そのような約定が原告と大矢との間になされたとする証拠はなく、しかも、右精算書によつて原告が八ヶ岳山麓開発に対し支払うべき六八四万六三八〇円が現実に支払われたと認めるに足りる証拠もないのであつて、前記認定の諸事実に照らすと右書面もまた原告が八ヶ岳山麓開発に対し本件物件を売却した事実を仮装するがための一環として作成された書面と解するのほかないのであつて、右精算書の記載をもつて、八ヶ岳山麓開発に本件物件が売却されたと認めることはできない。

さらに、大矢は、八ヶ岳山麓開発が本件物件を譲渡したことにより譲渡益を得たが、同社が倒産したため代表者である大矢個人に右所得が帰属するとして、二六四七万三四四〇円の譲渡所得がある旨の確定申告したというのであるが、右確定申告は、本件訴えが提起された後で、現実の取引がなされてから四年半以上を経過してなされたものであり、右事実をもつて、原告が八ヶ岳山麓開発に本件物件を売却したものとは到底認められない。

他に以上の認定に反する証拠はない。

よつて、原告は本件物件をスルザー社から購入して原實に売却し、取得費との差額を譲渡益として取得したと認定すべきである。

4  原告の短期譲渡所得金額について判断する。

(一)  譲渡収入

前項において判示したとおり、原告は、原實に本件物件を売却し、一億三〇〇〇万円の売買代金を取得した。

(二)  取得費

原告は、前記二2認定のとおり、スルザー社から本件物件を取得するにつき、<1>同社に対し売買代金七五〇〇万円を、<2>パイオニア産業に仲介手数料二三一万円をそれぞれ支払い、また、所有権移転登記手続を行うにつき、<3>登録免許税等に一七六万二四〇〇円を、<4>不動産取得税に七六万四二八〇円、<5>印紙代八万〇三〇〇円を負担した。

また、原告が、本件物件の購入資金を箱根信用金庫早川支店から融資を受け、その支払利息のうち右<1>、<3>及び<5>に相当する利息分が二二一万六八五七円であることは当事者間に争いがない(被告の主張1二(3)<2>参照)。

そうすると、原告は、本件物件の取得について合計八二一三万三八三七円の費用を要したことになる。

(三)  譲渡費用

(1) 原告は、前記2認定のとおり、大和不動産に対し、本件物件を原實に売却するにつき三〇〇万円の仲介手数料を支払う旨を約し、昭和五五年一月八日、三〇〇万円を支払つており、右仲介手数料が原告の原實に対する売買取引を仲介した対価であることは前項判示のとおりであるから、右仲介手数料は原告の譲渡費用に算入すべきものである。

(2) 原告が本件物件に設定されていた抵当権設定登記を抹消するにつき、七七〇〇円の表を要したことは、前記二1のとおりである。

(四)  原告主張の経費

(1) 原告は、藤田及び藤堂に対し、本件物件の購入、転売を任せてリベートとして合計二〇〇〇万円を支払つたことから、これを経費として譲渡収入から控除すべきである旨主張し、前記二2認定のとおり、原告は藤田及び藤堂に対し、リベートとして二〇〇〇万円を支払つたものと認められる。

しかし、前記二2認定のとおり、原告は、スルザー社から本件物件を購入するについて、仲介業者であるパイオニア産業に仲介手数料二三一万円を支払つており、また、原實に転売するについて、仲介業者である大和不動産に仲介手数料三〇〇万円を支払つているのであつて、右リベートの法的性格は正規の仲介手数料とは異なるものであり、その支払つた趣旨は必ずしも明確ではないものの、藤田及び藤堂が本件物件の取引から得られる利益の分前にあずかつたものと推認されるのであり、少くとも本件物件の取引に必要な費用ということはできないものであるから、取得費用又は譲渡費用として譲渡収入から控除できる経費とすることはできない。

(2) 原告は、八ヶ岳山麓開発に対し事務処理経費として二〇〇万円を支払つたから、右金額を経費とすべきである旨主張するが、原告が八ヶ岳山麓開発に対し、二〇〇万円を事務処理経費として支払つたと認める証拠はなく、また、原告が本件物件の購入又は転売に関して、八ヶ岳山麓開発に事務処理費用を支払う必要があると認める証拠もない。

(3) したがつて、原告が経費として主張するリベート及び事務処理費用は譲渡収入から控除しうる経費とは認められない。

(五)  以上により、原告の譲渡収入一億三〇〇〇万円から取得費合計八二一三万三八三七円及び譲渡費用合計三〇〇万七七〇〇円を控除して原告の本件物件の譲渡による譲渡所得を算出すると、四四八五万八四六三円となる。

三  本件更正処分の違法性について判断するに、本件更正処分は、原告の短期譲渡所得を前項において算定した譲渡所得金額よりも低額の四四七三万九七七二円と認定しており、また、原告の昭和五五年分の総所得金額が本件更正処分に認定の金額であることは当事者間に争いがないのであるから、本件更正処分は適法であつて、原告主張の違法はない。

四  本件賦課決定について判断する。

1  前記二3判示のとおり、多額の課税処分を免れるために赤字会社である八ヶ岳山麓開発を介在させ、譲渡所得を隠ぺいしようとして、大矢と通謀し、原告と八ヶ岳山麓開発との間の土地付建物売買契約書(甲第一八号証)及び同社と原實との土地付建物売買契約書(甲第一九号証)を作成し、また、原實から原告発行の手付金の領収書を回収して八ヶ岳山麓開発発行の領収書と交換し、さらに、大和不動産に八ヶ岳山麓開発宛の仲介手数料の領収書(甲第二一号証)を発行させ、あたかも八ヶ岳山麓開発が原實に本件物件を売却したかのような契約書、領収書を作成したと認められる。

そうすると、原告は、譲渡所得を過少にするための仮装又は隠ぺい工作を行つたうえで、過少な譲渡所得金額を納税申告書に記載して確定申告しているのであるから、国税通則法六八条一項所定の仮装又は隠ぺいに該当するというべきである。

2  以上により、原告は、本件物件の取引に八ヶ岳山麓開発を介在させて譲渡収入を一億三〇〇〇万円から八三〇〇万円に隠ぺいしようとしたのであるから、その差額四七〇〇万円に相当する所得税について重加算税を課すべきであり、また、確定申告の納税金額よりも増加するその余の所得税額については国税通則法六五条一項により過少申告加算税を課すべきである。

したがつて、本件賦課決定には原告主張の違法はない。

五  よつて、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川上正俊 裁判官 宮岡章 裁判官 西田育代司)

別表

<省略>

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